2008年07月25日

 いつもと変わらない硬い表情のまま、彼女が僕の手をぎゅっと握り締めた。それは自分の殻に閉じこもりがちな彼女にとって、精一杯の信頼の証なのだ。しかしその信頼に対して偽りの姿で相対している僕には、彼女の手を握り返してやることは遂にできなかった。精一杯の勇気を振り絞って彼女は僕に触れてくれたのに、僕と彼女の間は、僕が装着しているフィメールスーツによって隔てられている。ほんの数百ミクロンの厚さでしかないスーツは、彼女の指の震えから、わずかに汗ばんだ様子までしっかりと僕に伝えてくれるが、彼女に僕のことは何一つ伝わっていない。彼女が見ているのはスーツによって作り出された少女であって、少女の中にいる僕ではないのだ。

 それが悲しくて、僕は思わず涙を流した。涙は少女の頬を伝い、ぼたぼたと地面に落ちる。僕のそんな様子を見て、彼女は少しだけ目を見開いた。彼女は手をを伸ばして僕の顔に触れると、涙の跡を指で伝い、指先をペロっとなめた。感情の変化を窺い知ることはできないが、彼女がこのように何かに興味を向けるのは珍しいことなのだ。そして僕の涙がその対象として選ばれた。偽者の少女ではなく、まぎれもなく僕自身のものである涙が、だ。僕は口に咥えられている彼女の手を取ると、今度こそ、僕自身の意思で彼女の手を握り締めた。







girls.jpg




(おしまい)





ラベル:女装
posted by 三月うなぎ at 23:09| Comment(3) | TrackBack(0) | 女装 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
彼女の為にフィメールスーツを着た彼。
その思いを伝えきれないもどかしさ、悲しさ、そして強い思いが伝わってくるようですね。
さて、彼はスーツを脱ぐのか。それとも‥
久々のTSネタ、ありがとうございました。
少し俯き加減に左を向いている、右側の少女が僕ですよね(多分
表情は見えなくても背中が気持ちを語っているなって何か思ってしまいました。
Posted by toshi9 at 2008年07月28日 00:33
コスプレイベントに参加するようになって数年たちました。
顔なじみになった幼い姉妹から「着ぐるみさんの中はお姉さん」と信じられている様子。

この姉妹の親御さんとは知り合いなんですけど、
お子さんたちには、いつどこで告白しようか…。
ちょっと困ってる中の人がいます。

…ホントにホントの話です。
Posted by 奈奈子 at 2008年07月30日 23:28
>toshi9さん

改めて思いましたけど、TSネタは難しいですね。業界自体が既にある程度成熟していることもあって、作品として成立させるためには、変身すること自体とは別なところにテーマを設定する必要がありそうです。もっと欲望に忠実になれれば、また違うのかもしれませんけれども。
ちなみに、どちらが僕でどちらが彼女かというのは、私の意図した正解もありますが、皆様のご想像にお任せします。


>奈奈子さん

>お子さんたちには、いつどこで告白しようか…。

難しい問題ですね。
基本的には、本人たちが自然に気がつくのに任せた方が良いような気がしますが……。
Posted by 三月うなぎ at 2008年08月01日 00:46
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