2009年07月26日

夏の妄想

 元々は「トロンプ・ルイユ」で使用するために書いたものなのですが、そちらでは一部隠されてしまっていますので、こちらで全文掲載しておきます。



七月某日 雨のち曇り

今日は朝から昼過ぎくらいまで断続的に雨が降り、
湿度は高かったが、この時期にしては涼しかった。

放課後、僕は原沢博子の後を追って図書室へ行った。
ページを繰る、袖口から伸びる彼女の腕はとても生白い。
筋肉もあるのかないのか。
抱きしめただけでへし折れてしまいそうだ。
そんな博子のか細いたたずまいが、却って、
僕の胃の辺りで蠢いているマゾヒスティックな心を刺激する。
僕は博子の後ろの席に座り、ブラの紐が薄く透けた背中を
見つめながら、じっと妄想にふけった。

やがて博子は何冊かの本の貸し出し手続きを済ませると
図書室を後にする。
僕も博子を追って図書室を出ると、
階段を降り、渡り廊下から玄関へと抜け、
細い砂利道を通って校舎の裏にある駐輪場へと向かう。
僕が校舎の角を曲がると、丁度自転車に乗った
博子と鉢合わせをし、驚いた僕はその場に倒れこむ。
大きな水溜りのおかげで、僕の着ていた制服は泥だらけになる。
博子はさほど悪びれもしない様子で僕をじろりと睨むが、
ぼそぼそと小さな声で詫びを言うと、
着替えを用意するからついてくるようにと促してくる。
僕は一度はその申し出を遠慮するが、博子との交流を望む
下心もあり、博子の申し出を受けることにする。
博子が向かったのは、彼女が所属している文芸部の部室だ。
部室には僕たち二人以外には誰もいない。
文化祭などの前でもなければ、普段部員たちは来ないのだという。
「服を脱いで」
突然の博子の言葉に僕は戸惑う。
服を脱ぐ前に着替えを貸して欲しい。それが順番だろう。
僕のその主張には、どうやら得心してくれたようだ。
博子は少し待つよう告げ、腰に手をかけてホックを外して
ファスナーも下ろし、自分の穿いているスカートを脱ぐ。
次いで、胸元のリボンを解いて、シャツのボタンも外していく。
その動きは僕の視線など無いかのように淡々としている。
下着姿になった博子はさらにブラに手をかけながら、
僕にその女子用の制服を着るように促す。
脱ぎたてのスカートを手に取ると、そこには博子のぬくもりが残っている。
手に触れた裏地の感触を自分の太ももの感触へと敷衍して、
スカートを穿いた自分を想像する。
博子は下着まで全て脱ぎ去り全裸となり、じっと僕を見つめる。
「服を脱いで」
再度の脱衣勧告は、僕に下着まで身に着けろということなのだろうか。
「似合うわよ、多分」
無表情につぶやくその様子はお世辞のようにも見えなかったが、
さりとて博子の前でスカートを穿くのに抵抗が無いわけも無い。
僕は硬直したまま、どうしたものかと思案する。
業を煮やしたのか博子は表情も変えずに小さなため息をつくと、
僕のベルトに手をかけて弛めると、そのままズボンを下ろす。
僕は抵抗するでもなく、博子の為すがままにされる。
博子は淡々とシャツを脱がせて僕の上半身を裸にすると、
さらには泥水に塗れたパンツにも手をかけて、
ためらうことなく引き下ろす。
しばらくの間、僕と博子が裸で向き合う不思議な時間が流れる。
どういうわけか、僕自身が全裸でいることに対する羞恥も、
博子に対する性的な興奮も感じられない。
やがて博子は自分のうなじの辺りに手をかけ、
自らの皮を引き裂いて横に押し広げると、
頭部を掴んで皮をずるりと剥く。
僕のグロテスクな予想は裏切られる。
皮を剥いた博子の中からはまた、同じ顔をした博子が現われる。
頭部に続いて皮の中から両腕を引き抜くと、
続いて胸、腹部、腰、そして両足までも皮の中から引っ張り出す。
そこには全身の皮を脱ぎ捨てた博子が立っている。
それが汗か何かは不明だが、全身にはぬめりを帯びている。
脱皮を果たした博子は脱皮前とさほど変わらないように思えるが、
元々華奢だった博子の身体は尚一層痩せ細ったようにも見える。
博子から差し出された皮膚を、僕はぼんやりとしたまま受け取る。
だらりと垂れた博子の皮膚は重みをほとんど感じさせない。
しかし、まるでそれ単独で生きているかのような温もりを感じさせる。
博子はただ、僕をじっと見つめている。
僕はその瞳に促されるままに、博子の皮膚の首から背中にかけて
開いている穴に右足を入れる。
皮膚の内側は少し滑り気があり、スムースに足を入れることができる。
右足に続いて、左足も入れる。
特に締め付けられるような感触は無いが、
ほっそりとした博子の足のシルエットは保たれているようだ。
そのまま皮を引き上げて、両腕を通し、上半身も皮によって覆われる。
博子の皮を着ているという感覚はあるのだが、
皮膚の表面に触れるものの感覚も、豊かとは言えない乳房の重みも、
自分自身のもののようにダイレクトに感じることができる。
最後に頭部の皮を被る。
皮の内部で初めのうちは暗闇に覆われていたが、
程なく視界がクリアとなってくる。聴覚も同様。
口を開ければ、確かに外界の空気を吸うことができる。
僕は博子の皮の中にすっかり収まり、外見上は博子と見分けがつかなくなる。
さらに、博子は僕に下着を差し出す。
博子とまったく同じ姿かたちを手に入れた以上、
博子の衣服を着用することを拒む理由は既に無い。
僕は差し出されるままに制服を身につけていく。
最後にリボンを結び、僕は完全に原沢博子となる。

僕は汚れていない衣服を貸してもらい、
これでどうやら恥をかくことなく帰宅することができる。
しかし目の前の博子は、僕に着ていたものを貸し与えて裸でいる。
君はどうするのかと博子に尋ねると、博子は棚の上にあった大きな
ダンボール箱を下ろしてきて、中から毛皮のようなものを取り出す。
その毛皮にはコリー犬のような長い鼻面を持った犬の顔がついている。
コリー犬の背には僕が着込んでいる博子の皮と同じような切れ目がある。
博子はその切れ目を掴むと、その中に身体を潜り込ませる。
平たく潰れていた犬の毛皮は博子という芯を手に入れて厚みを持ち、
一頭の立派なコリー犬となる。
犬としては随分大きいが、中に人が入っているとはとても思えない。
人と犬とでは手足のバランスも大分異なるはずだが、
きっとそれも、僕が博子の細身の身体を手に入れたように、
なんらかの方法で上手く処理されているのだろう。
博子は戸棚の奥に顔を突っ込むと、犬の首輪を引っ張り出してきた。
僕はその首輪を博子の首に巻く。
その首輪には2メートルほどのリードが付いている。
僕がリードを掴むと、博子は僕を引っ張るようにして歩いていく。
大型犬に引きずれる女の子は随分危なっかしく見えるかもしれない。
一皮剥けば女の子に引きずられる男なのだと、一体誰が気付くだろう。
駐輪場まで連れられていった僕は、博子の自転車にまたがる。
僕は博子に道案内されるままに自転車を走らせる。
博子はさほど運動する習慣がないのか、ペダルを漕ぐ足が重く感じられる。
しかし当の博子は軽やかに駆け、むしろ自転車で付いて行く
僕を気遣っているように、時折ペースを落としたりする。
30分ほどして、僕たちは博子の家に着く。
僕は博子を玄関先に繋ぐと、本来の主人を差し置いて博子の部屋に入る。
博子の鞄をぞんざいにベッドの上へと放り投げると、
僕はまずクローゼットを開き、
机の引出しを開き、
ベッドの下にある収納スペースを開き、
五つの人の皮と、三つの獣の皮と、
一つのなんだか分からない皮を見つける。
このことについて少し考えを巡らせてみたが、どうもうまく考えがまとまらない。
仕方がないので博子を散歩に連れて行くために、
僕はジーンズとTシャツのラフな格好に着替えた。

(おしまい)





ラベル:TS 不条理 動物
posted by 三月うなぎ at 22:32| Comment(0) | TrackBack(0) | TS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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