2006年12月24日

シンタローのクリスマスツリー

「もっとでっかいクリスマスツリーがあるといいのにな」
「そうね」
 あたしが折り紙で作ったささやかなクリスマスツリー。もっとちゃんとしたツリーを買ってあげたいのはやまやまだけど、中学生のあたしがしてあげられるのは、これで精一杯だ。
 シンタローくんはお父さんが早くに亡くなっていてお母さんが勤めに出ている関係で、あたしがしばしばベビーシッター代わりにシンタローくんと遊んであげているのだ。
「またきてね」
「うん、ばいばい」
 あたしはシンタローくんに手を振って玄関を出た。夕方。外はもう随分暗くなっている。
 コートのポケットに手を突っ込みながら、あたしはぼんやりと考える。あたしがシンタローくんにしてあげられることは、おそらくほとんどはしてあげていると思う。それに、シンタローくんの家庭の事情にあまり首を突っ込むのもよろしくない。それでも何か、あとほんの少しでもシンタローくんのために何かしてあげたい。
「ツリーかぁ。なんとかしてあげたいけど……」
 でも、今のあたしに何ができるだろうか。あたしは一つ、大きなため息をついた。



 そのときだ。曇天を貫くように、天空から一条の光が目の前に降り注いできた。
「あなたの願い、かなえましょう」
 仰ぎ見ると、光に包まれながら、一人の美しい女性が舞い降りてくるではないか。しかもその女性は、豊満な胸からウエスト、ヒップ、さらにはつま先にいたる美しい曲線を強調した、まばゆいばかりの純白の衣装――全身タイツを身に纏っていた。
「えと……」
 あたしはあっけに取られて言葉を失ってしまった。
「私は通りすがりの全身タイツの女神。ありとあらゆる全身タイツを司っている」
「あの……」
「あなたの想い、遠くからでもびんびん感じちゃうのよ。それでちょっと、ほっとけなくてね」
「はぁ……」
「お前には、この全身タイツを授けよう。これを着れば、お前の願いは叶うだろう」
「それを、着るんですか?」
「シンタローくんとやらのためなのだろう?」
「でも……」
「私で手を打っておいた方がいいぞ。ここだけの話、お前の願いを嗅ぎつけて一番乗りすることができのが私だったから良かったものの、後ろにはゴキブリの女神やおねしょの女神、それにラーメンの残り汁の女神なんかが順番待ちをしているんだぞ。私を断れば、そんなヤツラが次々にお前の願いをかなえようと押し寄せるだろう」
「それは、嫌かも……」
「話は決まったな。ではいくぞ。それ!」
 全身タイツの女神が指を鳴らすと、あたしはいつの間にか茶色い全身タイツ姿になっていた。それは薄っぺらい生地だと思うのだけれど、思ったほど寒くはないみたいだ。
「それはただの全身タイツではない。この中に足を突っ込んでみろ」
 女神が取り出したのは、まるでたらいほどの大きさの植木鉢だった。あたしは言われるままにその植木鉢の中に入った。
 すると突然あたしの身体は、緑色の葉っぱを模したファーをはじめ、色とりどりの星や鈴など、きらびやかな飾りで覆われた。
 そう、なんと、あたし自身がクリスマスツリーになってしまったのだ。
「どうだ。立派なクリスマスツリーだろう。お前自身がシンタローのツリーになるのだ」
「でも、あたしがこんな格好したって……」
「安心しろ。お前にはあたかも変な格好をしているだけのように見えるだろうが、普通の人間には、お前は本物のクリスマスツリーのように見えるのだ。全身タイツとはそうしたものだ」
「本当なの? それにしても……」
「その全身タイツの効果は24時間だ。明日のこの時間にまた戻ってこよう」
 それだけ告げると、全身タイツの女神は出現したときと同様、光に包まれながら空へと帰っていった。
 そしてあたしは、シンタローくんの家の玄関先に、ひとり取り残された。



 最初はめちゃくちゃ恥ずかしかったけれど、どこかのおばさんがあたしを眺めて『すごい。立派なツリーねぇ』なんて言いながら通り過ぎていったので、女神の言う通り、あたしのことはちゃんとツリーのように見えるのだろう。
 あたしはシンタローくんのために、開き直ってツリーをやってあげることに決めた。シンタローくん、明日の朝、あたしを見つけたらどんな顔をするだろうか。

 ほどなく、雪が降ってきた。いわゆるホワイトクリスマスだ。
 雪は音もなく、それでいて後から後からひっきりなしに降り続く。今年は暖冬小雪だと長期予報では言っていたけれど、この降り方なら、多分、明日の朝にはメチャクチャ積もっているだろうな……。
 明日は、シンタローくんと雪だるまでも作ろうかな……、って、そういえば明日一日、ツリーやってなきゃいけないのか……。
 


XmasTree.jpg



(おしまい)


ラベル:全身タイツ
posted by 三月うなぎ at 11:59| Comment(8) | TrackBack(0) | 変装一般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
いいですね。女の子のクリスマスツリーですか。カワイイですよね。もう少し植物っぽくてもいいですけどね。例えば、前にやった大きな木のお姉さんみたいな感じとか。それのクリスマスツリーバージョンとか。
Posted by テンプラー星人 at 2006年12月24日 18:12
いいですね。クリスマスツリーの女の子ですか。カワイイですよね。もう少し植物っぽくてもいいですけどね。例えば、前にやった大きな木のお姉さんみたいな感じとか。それのクリスマスツリーバージョンとか。
Posted by テンプラー星人 at 2006年12月24日 18:12
訂正です。ホントは後者を出そうとおもったんですが、訂正しようと思ったのが「書き込む」ボタンを押した後だったので訂正前の前者の方と一緒になってしまいました。スイマセン。
Posted by テンプラー星人 at 2006年12月24日 18:17
 弟的な存在の少年の為にと願った思いがすごい形で…でもその後に控えていた面々はそれ以上で。

 一日だけのツリーなだけいいかもですが、この後の展開がほほえましいものであるといいですね。
Posted by カギヤッコ at 2006年12月24日 23:13
全身タイツの女神ってことは
他に着ぐるみの女神や女装の女神も・・・
いろいろ妄想してしまいます。
Posted by あらきん at 2006年12月24日 23:23
僕は着ぐるみの女神や特殊メイクの女神、または変身の女神ですかね。でも、スキンヘッドの女神や坊主の女神だと女の子は泣くでしょうね。僕は坊主やスキンヘッドの女の子は大好きですけどね。ホントにカワイイ女の子って髪の毛がなくてもいい。逆に髪の毛なしの方がカワイさって増すと思うんですがね。三月うなぎさんは、スキンヘッドや坊主の女の子ってどう思いますか?
Posted by テンプラー星人 at 2006年12月25日 00:53
私は勤めに出ているお母さんを
癒してあげたいですね。
ワーキングプア状態で疲れているお母さんを
いつもと違う私に変身!みたいな。
色々変身させて
身も心も癒してあげたいですね。
Posted by くま at 2006年12月25日 16:57
皆様、コメントありがとうございます。
後日談も考えたのですが、時期的にちょっと微妙ですね。後でこっそり追加するかもしれませんけど、これだから季節ものは難しい……。来年まで寝かせるのもなんだしなぁ……。

>テンプラー星人さん
明らかな重複コメントはこちらで削除しますので、特にフォローのコメントはされなくても結構ですよ。

Posted by 三月うなぎ at 2006年12月25日 23:19
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