2007年07月12日

冷やし中華始めました

「冷やし中華一丁!」
 店先からオヤジさんが厨房に声をかけてきた。
 来た。冷やし中華だ。
 あたしはごくりと息を飲む。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ」
 おかみさんはあたしの肩を叩いてそう言うが、ここの中華料理屋でバイトを始めてから、最初の冷やし中華の注文なのだ。それほど大変なことではないとわかってはいても、どうしても緊張してしまう。
「さ、乗って」
 あたしはおかみさんに促がされて、チャイナドレスの裾を持ち上げてそっと巨大な皿の上に乗ると、なるべく自然に見えるよう笑顔を作った。




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「お待ちどう様」
 器に盛り付けられてキンキンに冷やされたあたしは、奥の特別ルームで待つお客さんの前に饗された。
「ごゆっくりどうぞ」
 オヤジさんがそう言うよりも早く、お客さんはあたしに向って手を伸ばしてきて、ゆっくりとあたしの胸をさすり始めた。

 冷凍された乳房は硬く、弾力を持っていないので、揉みしだかれるというようなことは無いのだが、それでもお客さんの指の感触は、氷漬けになったあたしの身体にもしっかりと伝わってくる。
 身体を強張らせるまでもなくあたしの身体は凍り付いて動くことができないのだが、それでもいやらしい感覚に耐えようと、どうしても身体の各所に無駄な力を入れようとしてしまう。

 お客さんの手は胸から腰、さらにその下にまで這い下りてくる。体表を覆う氷はあたしから抵抗する術を奪う拘束着でもあるが、あたしの貞操を守ってくれる防護服でもある。
 あたしはお客さんの為すがままにされるしかない。あたしの皮膚に襲い掛かるいやらしい感触だけは甘受しなくてはならないが、あたしの全身を包む薄い氷の鎧が、ギリギリのところであたしを守ってくれる。

 しかし時間が経つに連れて、大気とお客さんの体温とによって、その氷も次第に溶けてくる。それに従ってあたしの身体も生身に近づいていく。お客さんの指が、柔らかくなったあたしの太ももを押し込んでくるのをはっきりと感じ取ることができる。
 チャイナドレスと皮膚との間にも隙間ができてきて、お客さんの指が次第に内側にまで侵入してくるようになる。それに伴い、あたしの心にも少しずつ恐怖が押し寄せてくる。腰周りの凍結は少しずつ溶けてきたものの、ほとんど触れられなかった上半身は未だにぴくりとも動かすことができない。あたしは為す術もなく、ただ下腹部になけなしの力を込めるのが精一杯だった。

「すみません、そろそろお時間です」
 オヤジさんの声と供に、お客さんの動きがぴたりと止まった。予定の15分が経過したのだ。
 名残り惜しいのか、お客さんはあたしに触れた手をなかなか離そうとはしなかった。しかし親父さんに伝票を突き出されると、それを受け取って早々に引き上げていってくれた。
「お疲れ。どうだった、初仕事は?」
 オヤジさんがあたしに声をかける。正直なところ、予想以上にしんどかった。ただじっとしているだけだと思っていたのだが、そのじっとしているのがとてもつらいのだ。それでもあたしは、「大したことありませんでしたよ」とでも言うように、澄ましたような笑顔を向けた。胴体を中心にある程度凍みが溶けてはいるが、意思表示できるほど身体を動かすことができなかったからだ。
「今日は暑いから忙しいぞ。もう注文が3人分溜まってるんだ。ちょっと溶けかけてるところだけど、またすぐに固まってくれよ」
 オヤジさんはバイトの神田君と一緒にあたしを持ち上げ、厨房へと運び去って行った。あと、少なくとも3人。おそらくはまだ何人も、お客さんはやってくる。これから数時間、あたしは火照った身体をもてあました方々を、冷まし続けなくてはならないのだ。



 この夏にあたしが選んだバイトは、冷やし中華。10:00−18:00の勤務で、日給3万円也。お金になるし、なにより涼しく過ごすことができる。
 ちなみに、遅番に入っている仁美さんは、あたしよりももっとたくさん稼いでいるらしい。もっとも、高校生のあたしには遅番はさせてくれないんだけど。


(おしまい)




ラベル:ASFR
posted by 三月うなぎ at 00:57| Comment(1) | TrackBack(0) | 固め | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
それにしてもこのオヤジ、ノリノリである。
Posted by at 2007年07月24日 18:40
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