2007年09月07日

て:手長、足長を笑う

手長、足長を笑う

(意味)
「きゃ!」
 鋭い悲鳴をあげて、加奈芽は斜面を滑り落ちていった。
「大丈夫?」
 珠美は心配そうに上から覗き込む。
「うん、平気……、って、痛ったー。なんか血がでちゃった」
 加奈芽のひざは赤くすりむけ、血がにじんでいた。

 昔、橋本加奈芽と、渡辺珠美という、仲の良い二人の娘がいた。二人は高峰学園高等部の1年生で、同じクラスに在籍していた。二人は家も近所同士で、初等部の頃から二人はいつも一緒に行動していた。
 二人の家は学校から徒歩で15分ほどのところにあり、二人は自転車で通学している。その日も二人は一緒に自転車に乗り、山沿いの小道を併走しながら帰途についていた。
 しかし加奈芽は、ぬかるんで滑りやすくなっていた水溜りにハンドルを取られ、道を外れて自転車ごと数メートル下の草原へと転落していったのだ。

 珠美は慌てて自転車を停めると、加奈芽のもとへと下りていった。
「大丈夫?」
「うん。まぁ、身体の方はそんなに酷いことにはなってないけど……」
 加奈芽は珠美に木片を差し出した。その木片は赤い塗料で着色されていたようだったが、かなり古いものらしく、ところどころ塗料が剥げて地の木目が剥き出しになっていた。
「何? それ?」
「うん。なんか変なのがあって、あたし、踏み潰しちゃったみたい」
 尻もちを付いている加奈芽のお尻の下には、同じような木片が散乱していた。それらは無残なほどに破壊されていたが、どうやら元々は小さな御社のようなもののようだった。
 珠美はその中から、一枚の木片を拾い上げた。そこにはかすれ掛けていたが、墨で『手長足長』と書かれていた。
「『手長、足長』だって。なんだろ、これ」
「ん? それって、妖怪の? ちょっと見せてよ」
 加奈芽はその木片を受け取ろうと、珠美に向かって手を伸ばした。
 しかしそのとき、異変が起こった。地面に腰を下ろしたままの加奈芽が、腰を上げるまでもなく、少し離れた位置に立っていた珠美の持つ木片を掴んでいたのだ。加奈芽の腕は、通常よりも遥かに長く、およそ2メートルほどにまで伸びていたのだ。
「いやぁ!」
 珠美は思わず木片を取り落とし、腰が抜けたようにその場にへたり込んだ。
 だが、異変は加奈芽だけではなく、珠美にまで及んでいた。珠美の足は恐怖のためにがくがくと震えながらも、次第に長く伸びていったのだ。珠美は伸びていく足を必死で押さえつけようとしたが、自分から遠ざかっていく膝小僧を、ただ呆然と見つめることしかできなかった。

 加奈芽は腕が長く伸び、珠美は足が長く伸びた。二人は自分達の身体に起こった変化が信じられなかった。言葉もないまま、ただ漫然と時間だけが過ぎていった。
 加奈芽が踏み潰してしまったのは、妖怪・手長足長という二匹の妖怪を祀っていた社だった。誰が参るでもない古びた小さな社だったが、それを破壊してしまったのは問題だった。二人は手長足長の呪いを受けて、手足が長く伸びてしまったのだ。
「どうしよう……。やだよ、こんなの……」
 加奈芽の頭上から、珠美がポツリと声をもらした。足が伸びた珠美の身長は、いまや3メートルほどにもなっていた。
「こんな身体じゃ、家にも帰れない……」
 珠美は落ち込んだ様子で肩を落とした。
 そんな珠美を見て、加奈芽は強く責任を感じていた。自分の失敗のせいでこんな事態を引き起こしてしまった。しかも、自分だけならともかく、珠美まで巻き込むなんて。
「ホント、ゴメン。あたしがコケちゃったせいだよね。珠美にまで迷惑かけちゃって……」
「いいよ……。こんなことになるなんて、加奈芽にだってわかるわけ無いんだからさ……」
「でも……」
「いいから……」
 言葉ではそう言ってくれたとしても、しょげている珠美を見れば、責任を感じずにはいられない。かといって、今の加奈芽に、一体何ができるというのか。
「あのさ」
 加奈芽は意を決して、務めて明るく振る舞い、珠美を指差して笑った。
「珠美、パンツ見えてるよ」
 その指摘に、珠美は頬を赤らめて、スカートを押さえた。
「やだ! なによ、もう」
「ダメだよ、まだ見えるってば」
 加奈芽は尚もはやし立てる。見上げるほど高い位置にある珠美のパンツは、なかなかスカートで覆い隠せるものではなかった。
「ねえ。あたし、ずっと珠美と一緒にいるから。足が長くても恥ずかしくないように、手が長いあたしがいつも傍にいるから。パンツが見えそうになっても、あたしが隠してあげるから。だからさ、元気だしなよ」
「なにバカなこと言ってるのよ」
 そんな加奈芽の真剣な表情を見ながら、珠美も思わず笑みを漏らした。
 あたしたち、変な身体になっちゃったけど、二人が一緒なら、きっとなんとかなる。今までもそうだったじゃない。きっとこれからだってそうだよ。妖怪の手長足長だって、二人で一人のいいコンビなんだからさ。
 足を痛めた加奈芽を珠美が肩車しながら、夕焼けの中、二人は家路についた。

 転じて、大変な事態が発生したときにも笑いを忘れてはいけませんよ、ということ。




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ラベル:変身 妖怪
posted by 三月うなぎ at 00:48| Comment(3) | TrackBack(0) | かるた | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめまして、ちょっと前からちょくちょく覗かせてもらっていました、こがねむしと申します。
手長足長変身、堪能させていただきましたッ。変身後に二人が戸惑う様子とか、ちょっと百合っぽいところとか色々ツボでありました。

さて私、こういうところ↓
http://metamorgirl.blog83.fc2.com/
で女の子の妖怪変身etcを扱っているのですが、もしよろしかったらうちのページからこちらへのリンクを貼らせていただきたいと思っています。いかがでしょうか?
Posted by こがねむし at 2007年09月07日 17:12
 こがねむしさん、はじめまして。

 私もこがねむしさんのブログは以前から拝見させていただいていました。こがねむしさんの作品には、エロさ、ダークさがあって凄いなあと思います。私はどうもその辺り自然とリミッターがかかってしまうようでして、見習いたいところです。

 リンクについてですけど、私は『リンクフリーなんて言うまでもなく、リンクするのは自由だよ派』ですので、どうぞ御自由にリンクなさってください。
Posted by 三月うなぎ at 2007年09月08日 00:15
ぎゃ、うちをご存知でしたか。恐縮です(^^;
私のほうも三月うなぎさんの作風はライトでいいなぁ、と思ってたりしたので、その辺はお互い様かもしれません(笑

というわけでリンクさせていただきました。ありがとうございますー。
Posted by こがねむし at 2007年09月08日 10:53
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