2007年11月09日

マンドラゴラ娘

「もう逃げ場はないぞ、ハエジゴク女。さあ、美帆を返せ!」
 クラスメイトの河原崎美帆を連れ去ったハエジゴク女を追って、僕は世界征服を企む悪の秘密結社・ZOHのアジトに侵入し、地下にあった植物園のような場所でハエジゴク女を追い詰めた。辺りには毒々しい色をした多くの植物が育てられている。毒物を抽出するのか、あるいは怪人を製造する材料にするのか、いずれにしろ何らかの実験に用いられるのだろう。
 しかしハエジゴク女は、コンクリートの壁を背にしてもなお、不適な笑みを浮かべていた。
「フフフ……。女なら、それ、そこに」
「何!?」
 僕は慌てて周囲を見渡す。
「……タケル……」
 確かに聞こえた。辺りを埋め尽くす不気味な植物群の中から、弱々しいながらも、確かに美帆の声が僕の耳に届いたのだ。




Mandragora01.jpg




「美帆! 大丈夫か?」
「……うん……」
 地面に埋められて首だけ出した状態の美帆は、僕を見上げると弱々しく応えた。
「その姿は……。貴様、美帆に何をした!」
 なるべく怒りを押さえ込みながら、僕はハエジゴク女を睨みつける。
「そんなことよりも、早く女を助けてやったらどうだ?」
「……待ってろ、美帆。すぐに、助けてやるから」
 僕は美帆を掘り出すために美帆の傍に跪くと、その周囲の土に手を掛けた。
「ダメ!」
 しかし、そんな僕を制止したのは、当の美帆だった。
「美帆?」
「あたしを掘り出しちゃダメ! だってあたし……、マンドラゴラに改造されちゃったから……」
「マンドラゴラ? それは……」
「なんだ小僧、知らないのか?」
 ハエジゴク女が、胸に付いた大きな捕虫器を開閉させながら、ゆっくりと歩み寄ってきた。
「マンドラゴラは地面から引き抜かれるとき、恐ろしいほどの悲鳴をあげる。そしてその悲鳴を聞いた者は、たちどころに命を落とすのだ」
「そんな……。それじゃあ」
「女を助け出せば女は悲鳴をあげ、その声で貴様は命を落とすだろう。このマンドラゴラも、このZOH植物研究所の輝かしい研究成果のひとつだ」
「クソッ! 一体どうすれば……」
「そのまま土に埋めておけばいいだろう。そうしている限り、その女は無害だからな」
 ハエジゴク女は冷たく言い放つ。
「貴様にかぎつけられた以上、この研究所もすぐに爆破しなくてはならない。私は先に行かせてもらうぞ。貴様もさっさと退避した方がいいんじゃないのか? それともその女の世話をするか? ハハハッ」
 悠然と歩み去るハエジゴク女の背を、僕はただ見送ることしかできなかった。
 ハエジゴク女の言う通り、ここが爆破されるまでそう猶予はないだろう。しかし美帆をここに残していくわけにはいかない。
 どうすればマンドラゴラに改造された美帆を救い出し、脱出することができるのか。
 僕は思いつく限りの脱出方法を吟味し、そして棄却した。
 遠くで爆音が轟く。研究室の爆破が始まったのだ。
 落ち着け。きっと何か手はあるはずだ。
 僕は脳をフル回転させながら、美帆の頬を静かに流れる涙をそっと拭った。



(おしまい)






ラベル:妖怪 超科学 変身
posted by 三月うなぎ at 23:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 妖怪 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。