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2007年10月31日
Trick or Treat
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2007年08月31日
2007年08月24日
2007年03月10日
2006年12月24日
シンタローのクリスマスツリー
「もっとでっかいクリスマスツリーがあるといいのにな」
「そうね」
あたしが折り紙で作ったささやかなクリスマスツリー。もっとちゃんとしたツリーを買ってあげたいのはやまやまだけど、中学生のあたしがしてあげられるのは、これで精一杯だ。
シンタローくんはお父さんが早くに亡くなっていてお母さんが勤めに出ている関係で、あたしがしばしばベビーシッター代わりにシンタローくんと遊んであげているのだ。
「またきてね」
「うん、ばいばい」
あたしはシンタローくんに手を振って玄関を出た。夕方。外はもう随分暗くなっている。
コートのポケットに手を突っ込みながら、あたしはぼんやりと考える。あたしがシンタローくんにしてあげられることは、おそらくほとんどはしてあげていると思う。それに、シンタローくんの家庭の事情にあまり首を突っ込むのもよろしくない。それでも何か、あとほんの少しでもシンタローくんのために何かしてあげたい。
「ツリーかぁ。なんとかしてあげたいけど……」
でも、今のあたしに何ができるだろうか。あたしは一つ、大きなため息をついた。
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「そうね」
あたしが折り紙で作ったささやかなクリスマスツリー。もっとちゃんとしたツリーを買ってあげたいのはやまやまだけど、中学生のあたしがしてあげられるのは、これで精一杯だ。
シンタローくんはお父さんが早くに亡くなっていてお母さんが勤めに出ている関係で、あたしがしばしばベビーシッター代わりにシンタローくんと遊んであげているのだ。
「またきてね」
「うん、ばいばい」
あたしはシンタローくんに手を振って玄関を出た。夕方。外はもう随分暗くなっている。
コートのポケットに手を突っ込みながら、あたしはぼんやりと考える。あたしがシンタローくんにしてあげられることは、おそらくほとんどはしてあげていると思う。それに、シンタローくんの家庭の事情にあまり首を突っ込むのもよろしくない。それでも何か、あとほんの少しでもシンタローくんのために何かしてあげたい。
「ツリーかぁ。なんとかしてあげたいけど……」
でも、今のあたしに何ができるだろうか。あたしは一つ、大きなため息をついた。
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ラベル:全身タイツ
2006年11月15日
2006年11月01日
2006年10月13日
2006年10月05日
2006年08月07日
2006年06月07日
2006年05月10日
道化師の微笑み
「圭子、何落ち込んでるのよ」
「……別に。なんでもないよ」
高峰学園中等部3年の野上千里は、下校中のクラスメイト若井圭子の後を追いかけていた。圭子が早足で歩くので、追いかけていくのが大変だ。
「なんでもないことないでしょ。今日一日、ずっとしけた面してさぁ」
「なんでもないって」
「こんなときはさ、カラオケいこーよ、カラオケ」
「……いかない」
「じゃあさぁ、ゲーセンは?」
「……いかない」
「じゃ、ファミレス! あたし、おごるからさぁ」
「いかないってば!」
圭子は千里を振り返り、声を荒らげた。二人の間に気まずい沈黙が流れる。
千里が気遣ってくれるのは嬉しいし、確かに気分転換して嫌なことを忘れるのもいいことなんだろうと思う。それでも、今はそんなことをする気が起きないのも事実だし、周囲との関わりを遮断して独りになりたいと思っていることも事実なのだ。
一晩落ち込めば、明日にはきっと元気になるだろう。明日からは普通にできる。千里にはあしたちゃんと謝ろう。
だから、今日だけはそっとしておいて欲しい。今は独りにしておいて欲しい。圭子はそう思っていた。
「ごめん、千里。でも今日だけは……」
そう言って走り去ろうとする圭子の手を、しかし千里はしっかりと握って引き止める。
「じゃあ、家に来て。それならいいでしょ」
「ちょっと……」
千里は圭子の手を引き、強引に自分の家へと引っ張っていった。
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「……別に。なんでもないよ」
高峰学園中等部3年の野上千里は、下校中のクラスメイト若井圭子の後を追いかけていた。圭子が早足で歩くので、追いかけていくのが大変だ。
「なんでもないことないでしょ。今日一日、ずっとしけた面してさぁ」
「なんでもないって」
「こんなときはさ、カラオケいこーよ、カラオケ」
「……いかない」
「じゃあさぁ、ゲーセンは?」
「……いかない」
「じゃ、ファミレス! あたし、おごるからさぁ」
「いかないってば!」
圭子は千里を振り返り、声を荒らげた。二人の間に気まずい沈黙が流れる。
千里が気遣ってくれるのは嬉しいし、確かに気分転換して嫌なことを忘れるのもいいことなんだろうと思う。それでも、今はそんなことをする気が起きないのも事実だし、周囲との関わりを遮断して独りになりたいと思っていることも事実なのだ。
一晩落ち込めば、明日にはきっと元気になるだろう。明日からは普通にできる。千里にはあしたちゃんと謝ろう。
だから、今日だけはそっとしておいて欲しい。今は独りにしておいて欲しい。圭子はそう思っていた。
「ごめん、千里。でも今日だけは……」
そう言って走り去ろうとする圭子の手を、しかし千里はしっかりと握って引き止める。
「じゃあ、家に来て。それならいいでしょ」
「ちょっと……」
千里は圭子の手を引き、強引に自分の家へと引っ張っていった。
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2006年03月14日
あしゅら男爵男とあしゅら男爵女
「脚本、あがったよー」
「お、ごくろうさん」
高峰学園高等部3年B組は、学園祭で行われる演劇大会に参加することになっている。その演劇担当班で脚本を担当したのは、文芸部に所属する永野祥子。そしてそれをぱらぱらと眺めるのは、監督を務める映像研究会の高田哲則である。
「この敵役だけどさ、はっきりとは書いてないけどさ、身体の半分が男で半分が女、ってことでいいんだよね」
「そうよー」
大枠は事前に打ち合わせた通りなのだが、細かい登場人物の設定などは脚本の筆の滑り方にもかかっている。この半男半女の敵役も、打ち合わせの段階ではいなかったキャラクターだ。
「問題ある?」
「いや、それはいいんだけどさ、役者としては男と女、どっちが演じることを想定してるの?」
「え?」
沈黙する永野。
「……うまく演じられる人、かな」
「考えてなかった?」
「いや、頭の中では男台詞と女台詞と、別の人がしゃべっているつもりだったんだけど……」
「うーん。映画撮るなら吹き替えでもいいかもしれないけどさ、舞台だからね。声だけ当てるってのも、ずれたりするだろうし、あんまりやりたくないなぁ」
「そっか。でもどっちかというと、男がいいかな」
「なんでさ?」
「女の子にそんな変な格好させるのもかわいそうだし」
「そりゃ男子差別だよ」
高田が反論する。
「一般的には、男が女役をするよりも、女が男役をするほうが受け入れられやすいんだから、女子が演じる方がいいと思うんだけど」
「そうかなー。どうせコメディリリーフみたいな役どころだから、男子でもいいと思うけど」
二人とも、いろいろと方針を練っている。しばしの沈黙。
「どうしようか?」
「そうだなあ。今度のホームルームでみんなに諮ってみよっか」
「そだね」
「それで、役者の候補なんだけどさ……」
なにやらひそひそ話を始める高田と永野。
「じゃあそいうことで」
「そういうことで」
ぐっふっふ、と、二人で不気味に含み笑いをしながら、その日の打ち合わせは終わった。
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「お、ごくろうさん」
高峰学園高等部3年B組は、学園祭で行われる演劇大会に参加することになっている。その演劇担当班で脚本を担当したのは、文芸部に所属する永野祥子。そしてそれをぱらぱらと眺めるのは、監督を務める映像研究会の高田哲則である。
「この敵役だけどさ、はっきりとは書いてないけどさ、身体の半分が男で半分が女、ってことでいいんだよね」
「そうよー」
大枠は事前に打ち合わせた通りなのだが、細かい登場人物の設定などは脚本の筆の滑り方にもかかっている。この半男半女の敵役も、打ち合わせの段階ではいなかったキャラクターだ。
「問題ある?」
「いや、それはいいんだけどさ、役者としては男と女、どっちが演じることを想定してるの?」
「え?」
沈黙する永野。
「……うまく演じられる人、かな」
「考えてなかった?」
「いや、頭の中では男台詞と女台詞と、別の人がしゃべっているつもりだったんだけど……」
「うーん。映画撮るなら吹き替えでもいいかもしれないけどさ、舞台だからね。声だけ当てるってのも、ずれたりするだろうし、あんまりやりたくないなぁ」
「そっか。でもどっちかというと、男がいいかな」
「なんでさ?」
「女の子にそんな変な格好させるのもかわいそうだし」
「そりゃ男子差別だよ」
高田が反論する。
「一般的には、男が女役をするよりも、女が男役をするほうが受け入れられやすいんだから、女子が演じる方がいいと思うんだけど」
「そうかなー。どうせコメディリリーフみたいな役どころだから、男子でもいいと思うけど」
二人とも、いろいろと方針を練っている。しばしの沈黙。
「どうしようか?」
「そうだなあ。今度のホームルームでみんなに諮ってみよっか」
「そだね」
「それで、役者の候補なんだけどさ……」
なにやらひそひそ話を始める高田と永野。
「じゃあそいうことで」
「そういうことで」
ぐっふっふ、と、二人で不気味に含み笑いをしながら、その日の打ち合わせは終わった。
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